かなしいことだけ集めたい

鹿児島帝国で生存中

鴨のTシャツ

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捨ててしまったTシャツを思い出す。

 

大きな鴨が描いてあった。後ろには鴨のお尻が描かれていた。かわいいTシャツだった。だけれど捨てた。多分、2度目の引越しで捨てた。

 

穴も開いていなかったのに捨てられてしまったあのTシャツには、もっと別のあり方があったのかもしれない。

 

もしかしたらあのTシャツは、女の子が着ても可愛かったかもしれない。おっぱいの大きな女の子が着たら特に。中央線に住んでいそうな女の子で、渡辺ペコが好きなのだ。そしたら「その鴨かわいいね」とか言いながら胸をずっと見ている男が現れただろう。そういったことに彼女はうんざりしているかというとそうでもなく、彼女は鴨に向けられた視線を、自分に向けられた視線へと変換できるだけの度量をもっている。そういう人間に着られれば、鴨は満足しただろうか?

 

しかし、それは間違いだ。その鴨は大きくゆがんでいる。本当は、胸の平らな女の子に鴨は着られるべきだった。かもしれないではなく、そうあるべきだった。まあでもその女の子は顔がかわいいから、だれも鴨のことなんか気にしない。鴨は確かにそこにいるべきだったけれど、それはとってとてつもなく退屈なことだった。胸の小さな女の子にしたって、だれも見てくれないTシャツを着ていたってしょうがないと思うだろう。そして多くの美男美女がそうするように、彼女は無地のTシャツを着るようになる。鴨はどこに行く?

 

鴨だけに限った話ではない。おれは動物の描いてあるTシャツが好きだった。虎、仔犬、熊、鰐、水牛、白熊、革命家、馬、フラミンゴ、カエル。

まあそれもみんな何処かに行ってしまった。おれは美男美女ではないのだが。それでも動物はどこかに行ってしまった。

 

そいつらは外濠に逃げ込み、緑色の水のなかで遊びまわっている。

虎は革命家を齧り、熊と鰐と水牛が3Pをしている。

白熊は炎上し、馬はカエルを乗せて自撮りしている。

おっぱいの大きな女の子も中央線からやってきて、フラミンゴを値踏みしている。

仔犬はいつもひとりぼっちだ。

 

おれは胸の平らな女の子とそれを眺めていたが、雨が降ってきたのでそろそろ帰ろうと思う。しかし鴨はどこに行った?